カーブドッチ鳥屋野がオープンして少し経った頃、新人、しかも若い女性スタッフが私が座ったテーブルに『いらっしゃんませ』と水の入ったグラスを持ってきた。
そのとき手が震えていたので、思わず『俺は怖くないから大丈夫』と言ったら、さらに震えて水がこぼれてしまった。
飲み物を持ってくる様子を見ていると、その人がマニュアル通りにただ運んできたか、あるいは、頭を使っているなとか、心から考えて何かをしようとしているか、何となくわかる。
さっきのカーブドッチの若い女性は、しばらくしたら震えは無くなり、ちょうどいいタイミングでさりげなく『この前は大変失礼いたしました』と言って、水の入ったグラスをテーブルに置いた。
その時、笑顔も一緒だった。
何気ない、さり気ないグラスの置き方ひとつで、人の気持ちを良くする。
どんな仕事でも共通することは、心から何かをしようとすること、あるいは、頭ではなく心で考えれば必ず人の心を動かすことがある。
その若い女性の一番の魅力は返事だった。
『はい』という返事、ものすごくシンプルなんだけど難しい。
自分も人に対し心の底から『はい』という言葉を発することがどんどん少なくなっている。
『うん』だったり、『はい、はい』と連呼することが多くなり、人の話をちゃんと聞かなくなっている。
我々が当たり前にやっている接客、そして販売は、この『はい』という返事に曇りがでている。
何でも知っている、理解している俺そして私、人からなんだかんだ言われたくない、スマホを見れば何でもわかる。
大切な人と人の触れ合いから生まれる『はい』という返事は、ネット社会あるいはデジタル社会だからこそ大切であるし、心を温かくするものではないか。
あの若い女性は結婚して子供がいるそうです。