「自然の中に店を作るぞ!」と鳥屋野潟に店を移転して10年くらいたった時、そして長岡店を高畑に移転して2年目ぐらいの時、不安が駆け巡った。
小売業界では人の集まるところに出店するというのが常識で、それに逆走していたわけだから当然と言えば当然だ。
そんな時に一冊の本に出会った。タイトルは『グリーンネイバーフッド』。この本の内容は自分の今までの考え方を大きく変えるキッカケとなった。吹田良平さんという人がアメリカのオレゴン州ポートランドという街の都市再生事例に出会ったことで街にみなぎる雰囲気に興奮して通い詰めた内容が満載だ。
自分の本業である家具とインテリア雑貨販売では売上を上げて成長していくのが大切なことではあるが、それだけで商売を継続していくのは難しいと何となく思い始めた。
そこで、まずは「食」の提供、そしてアパレル、要は「衣・食・住」の複合で集客ができるのではないかと動き始めていた。
新潟は水の街、長岡は歴史の街であり城下町でもある。だったらそれを意識するのもありではないか。それと、もう一度自分が商売をする目的について考える必要があると思った。
自分たちの店がそこに存在することでその周辺が変わっていく。そして、その近くに住んでみたいといった気持ちを持ってもらうのもありだと考えるようになった。
本の第1章に、ライフスタイルの地殻変動という記述があった。これまでの都市の成り立ちは、はじめに産業ありきで、職のある所に人が集まり居住し、やがて街が形成されていった。ところが今は産業構造の変化と情報技術の急激な発達によって、職があるかないかよりも、自分たちが住みたい場所を優先して街を選ぶようになってきた。自分たちの感受性に合致した気持ちの良い生活が実現することで人々が集まり、街が発展し、企業はそんな人々が多く住む人気の街を目指して後からやってくる。それは、そこで生まれるポスト工業化、高度サービス産業時代の新しい序列である。こんな内容だった。
さらに強烈な記述があった。物事を動かそうとするならば、役所は民間企業の活動を抑制する側に廻ってはならない。民間企業の後方支援に廻るくらいの度量が必要だ。それがポートランド市開発局だ。新しいお役所仕事のカタチである。
非常に参考になった。あらためて、自分達が仕事をしている街はどうなんだろうという見方で、店づくりだけでなく街づくりにも思いが広がってきた。人口が減っていく地方でどんどん開発することではなく、今あるものに目を向けて手を入れることによって、そこにしかない価値ができていくのではないか。
一言でいえば、私たちが生きている街はなんの街か、だと思う。